大臣はいつ数値を知る?
(この記事はProject Our Futureにて昨年掲載したものを改変・転載したものです)
こんにちは、akiです。
いま、日本の政治を大きく揺るがしているのが通称「統計不正」問題です。今回は2019年2月14日に行われた衆議院予算委員会の議事録を見ながら、この問題について見ていきたいと思います。
今日は、大串博志委員(立憲民主党・無所属フォーラム)と政府側との質疑応答を見ていきます。統計不正問題の発端となったのは、2018年(平成30年)から突如統計の調査方法が変更されていたことですが、大串氏はそれ以前の2015年(平成27)にも問題があるとして問いただします。
「○大串(博)委員
(前略)
まず、今申し上げました、総理が、毎勤統計のサンプルがえの影響については、平成二十七年の九月に賃金について国会で質問を受け、その答弁を準備する際に、調査対象事業所の入れかえの影響があった旨の説明を受けた際に認識をしたということでございます、こう総理は述べられています。
認識をしたというのは、総理が、このサンプルがえの影響、毎勤統計に関して、この影響があるということを総理が認識したということでよろしゅうございますでしょうか。これは事実の確認です。」
「○菅国務大臣 総理が答弁しているんですから、そのとおりだと思います。」
実はこの「毎月勤労統計」というのは3年に一度サンプルとなる企業が変わる形で調査されていました。そして、調査方法が大幅に変わる2018年(ここが問題の発端ですが)の直前にサンプルが変わったのが、2015年のことです。この時の事実について大串氏は確認しています。
「○大串(博)委員 ありがとうございます。
そして、次にまたもう一度確認させていただきたいんですが、その次です。
総理は何とおっしゃったかというと、その上で、官房長官から答弁したとおり、当時、私の秘書官が厚生労働省の担当者からサンプルがえの状況等について説明を受けた際のやりとりの中で、サンプル入れかえによって過去にさかのぼって数値が大幅に変わってしまう理由や、専門家の意見を聞くなど、実態を適切にあらわすための改善の可能性などについて問題意識を伝えたことがあったとのことでありました、こういうふうに言われています。
(中略)
事実の確認でございますから、この当時というのは、質問に対する準備のときなのか、改めての機会なのか、お答えください。」
「○菅国務大臣 総理秘書官が厚生労働省の担当者から説明を受けた時期というのは、三月の末ごろということです。」
「○大串(博)委員 二〇一五年の三月末でよろしゅうございますね。うなずいていらっしゃいますので、そう確認しました。」
ということで、このサンプル替えをしたことで実質賃金が下がることについて首相側が知ったのは、2015年の3月末だったということが改めて確認されます。ここで、大串氏はこの時期について疑問を呈します。
「○大串(博)委員 毎月勤労統計の数字は、月初に速報値、月末に確報値です。朝発表されるケースが多いと私は知っています。これはマーケットにも大変重要な影響を与える数値でございますので、事前に漏れることは絶対にない数値だと私は理解しています。
にもかかわらず、今、官房長官は、四月の頭に出る速報値で、サンプル入れかえの結果、段差が出ることの事前の説明を三月末に受けた際に、総理秘書官はそういうことを聞いたということをおっしゃいました。(注:強調、下線筆者)これは重大な、統計に関する政府の取扱いの大きな問題行為ではないかと思いますが、いかがでしょうか。」
つまり、「実質賃金」が増えたか減ったかということは投資家にとって大きな指標ですから、これが漏れると株式市場が荒れる、ましてや「下がる」となったら大変なことになってしまうから、普通もっと慎重に扱うはずだということです。
これは一定の説得力があります。また、大串氏のあとに質問に立った小川淳司氏が茂木大臣にこのような質問をしています。
「茂木大臣、きょう、GDPの速報がありました。これは、茂木大臣クラスの方で一体いつ知るんですか、この速報値というのは。」
「○茂木国務大臣 きょう速報値が出たわけでありますけれども、名目そして実質ともに〇・三%の成長です。(小川委員「内容は聞いていません。いつ知ったか」と呼ぶ)知ったのは、けさの発表直前(注:強調、下線筆者)です。」
「○小川委員 いかがですか、皆様、お聞きになって。
担当大臣が聞くのが、けさですよ、発表の。それぐらい厳しいんだ、統計数値の管理というのは。それを、三年に一回のサンプルがえとはいえ、事前も事前、四月発表を三月末にわざわざ官邸に説明に行くこと自体、極めて不自然で異常です。この経過と動機をきちんと調べて、答えていただきたい。(後略)」
GDPがいつ所管する大臣に伝わるのが当日、その後にその大臣かまたは別ルートで同時に首相に伝わるのでしょうから、「毎月勤労統計」の数字が発表のかなり前に首相側に伝えられていたいうことは異常なことだといえます。
この時伝えられた「問題意識」
そして、この2015年3月末に「毎月勤労統計」のデータが事前に首相側に伝えられたとき、首相側からそれに対する「問題意識」が伝えられたということも、大串氏は追及しました。
登場人物は
大串氏は
「つまり三月末に、総理秘書官が厚生労働省の担当者からサンプルがえの状況等について説明を受けた際のやりとりの中で、サンプル入れかえによって過去にさかのぼって数値が大幅に変わってしまう、下がるんですね、下がってしまう、理由や、専門家の意見を聞くなど、実態を適切にあらわすための改善の可能性について問題意識を伝えたことがあったとのことでありましたということでありましたけれども、この聞いた総理秘書官はどなたでしょうか。」
とただします。総理側の窓口となったのが誰かということです。これに対して菅官房長官は、
「当時の中江総理秘書官です。」
と答えています。また、中江総理秘書官に相談しに行った厚生労働省側の人物については、
「○菅国務大臣 説明に行ったのは、厚生労働省の当時の宮野総括審議官と姉崎統計情報部長であったということです。」
と答えています。2015年当時に異常な早さで速報データが首相側に伝わったことに関わったのはこの人物ということです。
この3人がかかわった経緯について
「○菅国務大臣 説明に至る経緯として、サンプルの入れかえに伴い数値の遡及改定が行われる、このことについて厚生労働省から官邸の担当参事官に情報提供があって、大きく統計数値が変わることから、担当参事官から中江秘書官に相談の上、厚生労働省に説明を求めること、このようになったようであります。」
と歯切れよく答えています。
「問題意識」の中身は
続いて、大串氏はどのような問題意識が3人の中で共有されたのかについてただします。
「○大串(博)委員 そういう経緯の中で、この宮野総括審議官と姉崎部長は、一体どういうふうな説明を、当時、総理秘書官になされたんでしょうか。」
「○菅国務大臣 大きく統計数値が変わることからと書いていますので、そのことだろうと思います。」
大串氏はさらに詳しく問いただそうと試みます。少し長く引用します。
「○大串(博)委員 それで、そのような説明があったと。それに対して、サンプル入れかえによって過去にさかのぼって数値が大幅に変わってしまう理由や、専門家の意見を聞くなど、実態を適切にあらわすための改善の可能性などについて、総理秘書官がですよ、問題意識を伝えたことがあったということでありましたと。
この問題意識というのは、どういう問題意識だったんでしょうか。」
「○菅国務大臣 これもたびたび申し上げていますように、説明を受けた際に、サンプル入れかえによって過去にさかのぼって数値が大幅に変わってしまう理由、さらに、そのことについて、過去にさかのぼって変わりますから、専門家の意見を聞くなど、実態を適切にあらわすための改善の可能性、こうしたこと等について問題意識を伝えたということであります。」
「○大串(博)委員 今の官房長官のお答えは、総理のきのうの答弁をそのまま繰り返して読んでいらっしゃるだけですね。
私は、きのう、それを踏まえて、まさに今言われた、サンプル入れかえによって数値が過去にさかのぼって大幅に変わってしまう理由や、専門家の意見を聞くなど、実態を適切にあらわすための改善の可能性などについてと前置きした上で、総理が、問題意識を、つまり総理秘書官の問題意識を伝えたと言われたので、どういう問題意識だったんですかということを問うているわけです。
ここは重要なところなので、ぜひ答弁をお願いしたいと思います。」
「○菅国務大臣 これは、総理と私が同じというのは、ある意味で同じことですから、同じ答弁になるんだろうというふうに思います。
そして、先ほど申し上げましたけれども、サンプル入れかえによって過去にさかのぼって数値が大幅に変わってしまう理由、そして、このことについて専門家の意見を聞くなど、実態を適切にあらわすための改善の可能性などについての問題意識を伝えた、これは当然のことじゃないでしょうか。」
歯切れの悪さを感じられると思います。この後も2人の押し問答が続きますが、菅官房長官の答弁だけを抜き出します。
「○菅国務大臣 私は、昨日委員からいろいろな御質問の申込みがありましたので、丁寧にきょうは答えさせていただこうという形で秘書官から詰めさせていただいていました。
ですから、先ほど来申し上げていますけれども、サンプルの入れかえによって過去にさかのぼって数値が大幅に変わってしまう、その理由ですよ、理由。さらに、そのことについて専門家の意見を聞くなど……(大串(博)委員「繰り返しですよ、それは」と呼ぶ)いや、繰り返して、これしかないじゃないですか。これだけ変わったということで来たわけですから。(大串(博)委員「これ以上答弁しようとしないんですか」と呼ぶ)いや、とんでもないです。私が丁寧に答弁をしているとおりです。」
「○菅国務大臣 私が今答弁したとおりであります。
そして、結果的には、毎月勤労統計の調査方法の見直し等については、統計委員会を始めとする専門家の検討を経て統計的観点からこれは行われる。統計の人たちは専門家ですから、そこでやってもらうというのは、ある意味で自然なことじゃないでしょうか。」
(大串氏の、「専門家の意見を聞いたらどうなの」というのを総理秘書官は言ったのかという質問に対して)
「○菅国務大臣 それは、そのことについて何回となく答弁されているんじゃないですか。サンプル入れかえによって過去にさかのぼって数値が大幅に変わってしまうその理由だとか、あるいは、そのことについて専門家の意見を聞くなど、実態を適切にあらわすための改善の可能性などについての問題意識を伝えたことがあったようだと。
これが全てじゃないですか。総理答弁と一緒じゃないですか。」
(同じことをもう一度大串氏尋ねられて)
「○菅国務大臣 きのうの総理の答弁、私、もう一度ここで読ませていただきます。
サンプルがえによって大きく統計数値が変わることに対して、その理由を尋ねたり、専門家の意見も聞いてみてはどうかとの当時の秘書官の反応は至極当然のものではないかと思うという答弁をしています。
私の発言と違うでしょうか。」
最終的には、前日の総理答弁を読みあげるという堂々巡りの展開になってしまいました。登場人物が誰かまではすんなりといっていましたが、ここで急に議論がストップしてしまっている印象があります。
この日の国会会議録はこちらから↓
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/001819820190214007.htm#p_honbun
お読みいただきありがとうございました。