Music FMの操業停止と当時に考えるべきこと

潰して終わり、ではない

こんにちは、akiです。

「Music FM」というアプリの存在は、いまや多くの音楽ファンの知るところとなっています。音楽アプリの一つである「Music FM」は、見た目や機能は「サブスクリプション(サブスク)」と呼ばれる「spotify」や「Apple Music」と変わりません。ただ一つの問題点は、「全コンテンツが完全無料」であり「アーティスト側に利益は全く還元されない」ということです。

この作り手に利益が還元されていないという問題を解決すべく「セゴリータ三世」というYouTuberが先頭に立って「Music FM」のアクセスを禁止する活動を始めています。

この動きはアーティストに利益が還元されないまま多くの人に利用されているサービスを止めるという点において非常に有益です。一方で、少々やりすぎな点と「止めて終わり」ということにはならないのではないかという2つの点から疑問を感じます。今回の記事ではそのことについて書きます。 また、「アクセス禁止」という手法の問題点についてもの最後に触れます。

主に3つのテーマを扱います。概要はこちらです。

 ・そもそもサブスク自体が違法アプリの流れを汲んでいるのでは?
 ・Music FMがなくなった後のリスナーをどこに向かわせるのか?
 ・そもそもMusic FMだけが悪いのか?

そして最後に、私なりの解決策を述べます。

spotifyの10年以上前に登場した「Napster」というサービス

冒頭でも触れましたが、いま音楽はCDを買って聴くことに対して「サブスクリプション」というアプリのサービスを通して聴く機会が増えています。その「サブスクリプション」のパイオニアであり、現在のリーディングカンパニーでもあるのが「spotify」というサービスです。

日本への上陸が遅れたこともあり、この「サブスクリプション」は新しいサービスという印象を持たれがちですが、実は20世紀のうちにすでにこの原型となるサービスを構想した人がいます

それが、ショーン・パーカーといういう人です。彼は起業しようとしていたマーク・ザッカーバーグに助言を与え、Facebookの初代CEO(ザッカーバーグではなくパーカーなのです)になったことでも知られていますが、その彼が作ったもうひとつ重要なサービスが「Napster」というものです。

Napsterは1999年にサービスを開始しました。その概要は、

The software application was easy to use with a free account, and it was specifically designed for sharing digital music files (in the MP3 format) across a Web-connected network

無料のアカウントを使って、インターネット上でMP3形式で音楽をシェアするシステム)※訳、強調は筆者

‘The History of Napster’ Lifetime

Music FMとコンセプトは全く同じです。しかし、いま「Napster」という名前は聞きません。というのも、このアプリは若い世代を中心に広がりますが、言うまでもなく著作権侵害であり、全米レコード協会(RIAA)は速やかに裁判所に訴えて2001年にこのサービスは閉鎖されました。

ただこの後が非常に大事で、「Napster」を閉鎖せざるを得なくなったショーン・パーカーは、前述の通りザッカーバーグを手助けやFacebookのCEO就任を経て、立ち上がったばかりのspotifyにかなりの額を投資したのと同時に技術・運営面でも深くかかわりました

ちなみに、2010年のインタビューでは、spotifyの成功について、

 Spotify is doing what Napster never had a chance to try

(spotify は Napsterは全く挑戦できなかったことをしている)

Sean Parker On Why Spotify Works: “We’ve Got You By The Balls”, Business Insider

と、Napsterとspotifyを比較するような発言をしています。彼の中では、「spotify」は「合法化されたNapster」という意味合いを多分に帯びていることが窺えます。

このことから、spotifyは違法アプリの延長上に存在していて、その影響を多分に受けているということができます。「Music FM」と「サブスクリプション」は法律に照らせば正反対ですが、根底は同じ価値観の中にあるのではないかとも考えられます。

「Music FM」なき後、元リスナーをどこに着地させる?

もう一つ重大な問題が「Music FM」がなくなった後、元ユーザー(になるであろう人たち)はどのような行動をするかです。もっと言うと、「彼らは本当にCDを買ったりサブスクを使ったりするのか」という問題です。

この時に対比されるのが「漫画村」閉鎖の件です。「漫画村」閉鎖のあと、コミックの売り上げが伸びたということが言われていますが、これが同じようなことが音楽業界にも当てはまるとはいえない可能性があると考えます。

その理由が、「市場規模が漫画の方が大きい」ことです。2016年のコミック・週間コミック誌の合計売り上げは約3000億円であるのに対して、同年のオーディオ(CD等)・音楽ソフト(ライブDVD等)の合計売り上げは2400億円、オーディオに限れば約1700億円と、数字で見れば音楽は漫画の市場規模よりも小さいことがわかります。

ここに配信も加えると、2017年の電子コミックの売り上げは1711億円であるのに対して同年の音楽配信の売り上げは573億円にとどまっています。配信を加えると漫画業界の売り上げは「漫画村」が存在していた時期も含めて伸びていますが、spotifyが上陸しても日本の音楽業界の売り上げはは横ばいの状態です。

ここから懸念することは2つあります。1つ目は「そもそも音楽を好きな人の数が漫画より少ないのではないか」ということです。CDのシングル・アルバムの単価はコミックより高いことが多いですから、実際のファンの数で言うと売り上げ高以上に差がついているのではないかと思ってしまいます。

2つ目は、音楽業界は構造上の問題を抱えていて、それがサブスクリプションが本格始まっても売り上げが伸びない一つの要因なのではないかということです。このあたりのことについては、音楽ジャーナリストの柴那典さんの記事に詳しく記してありますのでそちらをお読みください。

「世界の音楽市場の足を引っ張っているのは、日本の音楽業界だった」柴那典

日本の音楽産業全体がいわば「斜陽」というレッテルを貼られかねない状況なのではないでしょうか。そうすると今まで「Music FM」を聴いていた人はこれから音楽を聴かなくなる可能性があります。ファンの数が少なく、売り上げも伸びていない業界に新たに「魅力を感じろ」という方が難しいです。少なくとも、「まんが村」停止の直後に起こったような活況を音楽業界に期待することは難しいと考えます。

本当に「Music FM」だけが悪いのか

「Music FM」の元ユーザー(になるであろう人たち)が音楽にお金を使うようにはならないのではないかというもう一つの理由は、音楽を売る側の意思が違法アプリの代わりとして「CDを買うのか」「サブスクで聴いて欲しい」のどちらなのかがはっきりしていないことだと思います。

これは3つ目の「本当に『Music FM』だけが悪者なのか」ということに関連します。

まず、日本では有名なアーティストでもサブスクに音源を公開していない人は多くいます。作り手側は「CDを買って欲しい」とまだ思っているのではないかと感じます。しかし、違法アプリでいままで聴いていた人がいきなりCDショップに行くというのはかなりハードルが高いので、せめて全音源をサブスクリプションで解禁するなどリスナーが違法な方向に走らない対策を講じるべきです。

そして、現在の大衆文化において重要視されているのは、先ほど「Napster」の概要を説明したときに出てきた言葉である「シェア」です。「買うこと」ではないのです。「シェア」はインスタグラムやTwitterといったSNSによってさらに加速されます。若者は「シェア」を(無意識的に)重視していますから、ここに乗らないサービスは見向きされることなく淘汰されると思います(このことも先ほどの柴さんの記事「所有からアクセスへ」という言葉で指摘されています)。

そういう点からも、「サブスクリプション」という「シェア」のラインの上に全音楽作品がしっかり乗ることが必要です。

そして、これはデータ化できない部分であくまで私が感じていることですが、多くの音楽ファンは「CDを買うこと」が「サブスクで聴くこと」よりも「良いこと」だというように感じている印象があります。「音楽ファンなら好きなアーティストのCDの1枚くらい持っているだろ」ということです。

セゴリータさんの動画も拝聴しましたが、「まずはCD」を買うことが先でそのあとに「余裕がないならサブスクでも」というお考えが根底にあるように感じました。

これは「違法かどうか」とは違った「倫理観」や「流儀」の話で、こういった議論を「Music FM」のアクセス停止の話に持ってくるのはあまり合理的でないと考えます。こういったある意味「掟」のようなことを強制すると、新たなファンを獲得する際に大きな弊害になると思います。

たしかに、時間をかけて「文化としての音楽の価値」や「アーティスト側に利益を還元することの重要性」を説くこと、もっと具体的には「小さいライブハウスから生まれる音楽の尊さ」を共有することは大切です。それが、アーティストへのリスペクトや彼らに対してお金を払うことの価値に気づく大きなきっかけになることは間違いありません。

しかし、そもそも現時点で違法行為をしている人にそんなことを言っても「高説を垂れる」だけになってしまい、より分断を深めるだけだと思います。こういった価値観を共有するには時間が必要です。まずは「違法なものを排除する」ということに大きな力を注ぐべきだと思います。

そして、「CDが1枚も持ってないけどサブスクで1000回は聴いた」というのでもファンだ、と認識される世界を作っていくことも大事なのではないかと思っています。「違法でない」ことは絶対に必要ですが「~すべき」を強制する必要はないのです。

未来に向けてどうするか

最後に、今後どうなっていくと良いか考えを述べます。

一番大事なことは、「Music FM」の日本でのサービスの停止です。ますが個々が大前提です。

しかし、セゴリータさんが行っている「アクセスの禁止」は憲法で禁止されている「検閲」にあたる可能性があるため賛成できません。アメリカでは、1996、98年にこういったサイトへのアクセスを禁じる連邦法が作られましたが、2002年に連邦最高裁が違憲判決を出してこの法律は効力を失いました。

現実的な解決策としては、GoogleとAppleへのアプリ削除を呼びかける(2つは私企業なのでこれはOK)、あるいは「Napster」のときと同様に法廷に訴えるということが考えられます。

(※実は私はすでに署名をしてしまっているのですが、このような観点から控えるべきだったと反省しています。削除を試みたところ、どうやら署名した際に入力したメールアドレスに間違いがあったようでできませんでした。ですのでそもそも有効な署名として認識されない可能性もあります)

また「Music FM」は多くの若者の利用者を抱えており、その点において重要なノウハウとデータの蓄積があります。このノウハウ・データは非常に有用です。「spotify」が「Napster」のノウハウに多分に影響されていることはすでに述べた通りですし、今まで正規のラインを使ってこなかった人たちの多くはは「Music FM」を使ってきたのですから、彼らが合法な形で音楽を楽しむためのプロモーションにおいて大事な情報です。つまり「Music FM」が持っているノウハウは、これから日本においてインターネットと音楽とのかかわりを考えていくにあたり重要な示唆を含む情報だと思います。

その点から見ても、必要以上に「Music FM」のみが非難されることについては違和感を感じます。「Music FM」というサービス自体は撃退すべきものですが、ノウハウを持っているエンジニア自体を完全に抹殺するようなことが長期的に見てプラスになるかどうかについては慎重になる必要があると考えます。

さらに、これを機にアーティスト側も「サブスクリプション」をはじめとしたインターネット上の配信に大きく舵を切り、リスナー側も多様な音楽の聴き方(もちろん違法でない)を許容していくことも大切です。そういったことが整って初めて、一部のの真面目なリスナーがバカを見るような状況は改善し、日本の音楽はもう一度息を吹き返せるのではないかと思います。

「Music FM」の問題は、その下にたくさん埋まっている問題の氷山の一角に過ぎないのかもしれません。

お読みいただきありがとうございました。

<参照したサイト>

「世界の音楽市場の足を引っ張っているのは日本の音楽業界だった―どうしてこうなったのか」、柴那典、現代オンライン、2018年4月26日
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/55423
2019年6月1日閲覧

「電子コミックの売上、前年比17.2%増。伸び率は縮小… 出版不況の正体とは?」、ダ・ヴィンチニュース、2018年3月3日
https://ddnavi.com/review/441022/a/
2019年6月1日閲覧

「平成25年度諸外国における有害環境への法規制及び非行防止対策等に関する実態調査研究報告書(HTML版)― 第1章 各国政府の有害情報に対する規制の現状(方針、規則、適用例等) 8.通信・インターネット 」、内閣府
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/hikou/h25/1_08.html
2019年6月2日閲覧

「日本の出版統計」、日本出版協会
https://www.ajpea.or.jp/statistics/
2019年6月1日閲覧

「日本のレコード産業2019」、日本レコード協会、2019年
https://www.riaj.or.jp/f/pdf/issue/industry/RIAJ2019.pdf
2019年6月1日閲覧

Sean Parker On Why Spotify Works: “We’ve Got You By The Balls”, Business Insider, 23 October 2010
https://www.businessinsider.com.au/sean-parker-spotify-2010-10?r=US&IR=T
2019年6月1日閲覧

The History of Napster, Lifewire, Updated 22 May 2019
https://www.lifewire.com/history-of-napster-2438592
2019年5月31日閲覧

「セゴリータ三世に物申す!違法音楽アプリの全アクセス禁止署名の間違い」、すまほんTV
https://www.youtube.com/watch?v=CSC2xix1CQs
2019年6月1日閲覧

「【危機的状況】このままだと音楽は途絶えてしまう…音楽業界の皆さん、気づいて欲しい【MusicFMなどを駆逐したい】」、セゴリータ三世
https://www.youtube.com/watch?v=LpYH0ejayQo
2019年6月1日閲覧

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