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「国民栄誉賞」について考えよう。

栄典制度の「欠陥」を補うために急場しのぎで作られた賞

こんにちは、akiです。日本プロ野球、そしてアメリカ大リーグで活躍したイチロー選手が先日引退しました。そしていま、イチロー選手がいままでに2回辞退したことのある「国民栄誉賞」の受賞が再び打診されるのではないかということがにわかに注目されています。

コームナタでは、2つの記事に分けて「栄典制度」そして「国民栄誉賞」について見ていきます。前回の記事では「勲章」「褒章」の2つの賞がある「栄典制度」について考察しました。今回は「国民栄誉賞」について、「栄典制度」との違いを見ていきます。

<目次>
 ・国民栄誉賞の歴史
 ・栄典制度と国民栄誉賞の違い
 ・イチロー選手が国民栄誉賞を受賞するかどうかの考察

・国民栄誉賞の概要

内閣府によると、国民栄誉賞の目的は「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えること」にあるとされています。昭和52(1977)年の内閣総理大臣決定によりこの制度は開始されました。この時の総理大臣は、福田邦夫氏です。

王貞治氏が第1号であることわ広く知られているほか、美空ひばりさんや「男はつらいよ」で主演を務めた渥美清さん、長嶋茂雄さんや松井秀喜さん、最近では羽生結弦選手など、現時点で26人と1団体(なでしこジャパン)が受賞しています。

・「栄典制度」との違い

受賞者がみなさん有名人であることから、一見すると一つ前の記事で取り上げた「栄典制度」とは大きな差がないように思えますが、この2つは全くの別物です。制度面でも多くので違いがあります。その違いを見ていきましょう。

年齢制限の有無

前回の記事で、「勲章」は70歳以上、「褒章」は55歳以上出ないと受章できないことを紹介しました。(現在は「褒章」の年齢制限はありません。また、文化勲章には年齢制限は当時もありませんでしたが80歳以上の受賞者がほとんどでした)一方で「国民栄誉賞」には年齢制限がありません。第1号となった王貞治氏について、本当はホームラン記録が更新された時点で「勲章」や「褒章」を受章するべきだっだけれども、年齢が達していなかったためにこの制度を作ったということがよく言われます。この点はこの賞において大きなポイントです。

賞(章)を与える人が違う

実は、「国民栄誉賞」と「栄典制度(勲章・褒章)」では、賞(章)を与える人が違います。「国民栄誉賞」は総理大臣が自ら与えるものですが、一方で「勲章」・「褒章」を与えるのは「天皇」であると「憲法」7条7号で定めらています。栄典の授与は「国事行為(天皇の仕事)」であるということです。

勲章や褒章の中にも、所管する役所の大臣から事前に受章したあと天皇に謁見するという章もありますが、文化勲章は天皇から直接授与されます。

定めている法律が違う

すでに言及しましたが、「栄典制度」は天皇の国事行為であるため、我が国の最高法規である「憲法」(7条7号)で定められています

第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

(中略)

七 栄典を授与すること。

「日本国憲法」e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=321CONSTITUTION#16

一方で、「国民栄誉賞」は「内閣総理大臣決定」に基づいて行われています。つまり、法律すら作らてはいません

・受賞者を決める機関が違う

受賞者を決める機関も全く違います。「内閣総理大臣決定」によって作られた「国民栄誉賞」は総理大臣の裁量権が広く、「内閣総理大臣が本表彰の目的に照らして表彰することを適当と認めるものに対して行う」とされており、基本的には総理大臣の判断で受賞者を決めることができます

一方で「栄典制度」は「春秋受勲者推薦要綱」に基づいて、「各省等(各省大臣等)から内閣府(内閣総理大臣)に対して推薦される」こととなっています。また、各省庁は「その所管分野ごとに各都道府県や関係団体から候補者の推薦を求め、候補者の選考を行ってい」ます。また、多くの分野にわたって活躍し、受賞する分野が被ってしまう可能性がある人物については各省庁間での調整も行われます(内閣府「栄典制度の在り方についての論点の整理 III-4候補者の推薦、選考手続、審査について」より)。

こうして相違点を比べると、「国民栄誉賞」は様々な手続きがかなり省略されていることがわかります。また、「国民栄誉賞」の方が受賞者が全盛期(あるいはそれに近い時期)に受賞するために注目を集めやすいですが、天皇から直接授与されることや憲法に規定されていることなどを考えると、「栄典制度」の方が格が高い印象があります。

・イチローが「国民栄誉賞」を受賞する可能性

さて、話をイチロー選手が国民栄誉賞を受賞するかどうかに戻します。受賞するかどうかは最終的に本人の意思にかかっていますから、そこに踏み込むことは失礼です。今回は「政府が受賞を打診するかどうか」に焦点を当てたいと思います。

結論から書くと、その可能性はかなり高いといえます。

最大の理由は「年齢制限のために栄典が受章できない」ことです。これはまさに受章する年齢に達していなかった王貞治氏のためにこの制度ができたことと全く同じ理由です。

(前回の記事で訂正した通り、現在「褒章」の年齢制限はありません。また文化勲章も年齢の制限は制定当初からありませんでしたが、外国人に文化勲章が与えられたのはいままでたった6人であり王氏はそのために受賞できなかったと思われます)

さらに、過去の受賞者を見ても打診される可能性が高いように思います。ホームランの世界記録を持つ王貞治氏に対してイチロー選手は安打の世界記録保持者です。また、松井秀喜氏とは同時代にアメリカの大リーグで名をはせました。この事実から考えても、イチロー選手に国民栄誉賞の受賞が打診されても全く違和感はありません。

・最後に

国民栄誉賞の受賞がイチロー選手に打診されると、再び世間が熱狂すると思います。しかし、その裏には「もらうべき栄典がもらえなかった」ことからこの賞が生まれたという問題が潜んでいることに目を向けるべきだと思います。

王貞治氏は「文化功労者」には選ばれていますが文化勲章はまだ受賞していません。本当は国民栄誉賞を受賞するタイミングで文化勲章が与えられるのがベストだったのではないでしょうか。

改革が進んではいるものの、「勲章」を身近にするためにはまだまだたくさんの改革の余地があるように思います。平成28年にはさらなる改革に向けて動き出すことが閣議で了承されていますし、これからより間口の広い章にしていくことが必要なのではないかと思います。

お読みいただきありがとうございました。

また記事に多数の誤りがありましたこと、お詫びいたします。申し訳ございませんでした。

前半の記事はこちらから。
「日本の『勲章』制度について考えよう。」

<参考文献>

「栄典制度の在り方に関わる論点の整理」、内閣府HP、2019年3月23日閲覧
https://www8.cao.go.jp/shokun/seidokaikaku/kondankai/ronten-seiri/index.html

「日本国憲法」、電子政府の総合窓口 e-Gov 、2019年3月23日閲覧
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=321CONSTITUTION#16

「国民栄誉賞について」、内閣府HP、2019年3月23日閲覧
https://www.cao.go.jp/others/jinji/kokumineiyosho/

「国民栄誉賞受賞一覧」、内閣府HP、2019年3月23日閲覧
https://www.cao.go.jp/others/jinji/kokumineiyosho/kokumineiyosho_ichiran.pdf

「文化勲章受章者一覧」、文部科学省HP、2019年3月29日閲覧
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/others/detail/1318181.htm

「文化勲章受章者一覧(平成15年~平成30年)」、文部科学省HP、2019年3月29日閲覧
https://www8.cao.go.jp/shokun/shiryoshu/bunkakunsho-jushosha.pdf

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