medal

日本の「勲章」制度について考えよう。

分かっているようでわかっていない「勲章」のこと

こんにちは、akiです。先日、日本とアメリカでプロ野球選手として活躍したイチロー選手が引退しました。この引退を機に、これまでイチロー選手が辞退していた「国民栄誉賞」の受賞が再び打診されるのではないかということが注目を集めています。一方で、これは選手の政治利用だという意見もあります。

今回は、2つの記事にわたって「国民栄誉賞」や日本の「勲章」制度について歴史とともに振り返ってみたいともいます。

<目次>
 ・「勲章」制度の正しい呼び方
 ・制度の歴史
 ・イチローは文化勲章を受章できない?!

・日本の勲章

タイトルで「勲章」制度という言葉を使いましたが、そもそもこれは正しくありません。正しい言い方は「栄典」制度です。「栄典」制度の中には「勲章」と「褒章」という2つの制度があります。今回は勲章という言葉になじみが深い方が多いだろうということからタイトルにはこの言葉を使いました。

栄典制度の歴史

栄典制度の歴史は長く、この制度は明治8(1875)年に出された太政官布告にさかのぼります。この布告により現在の「旭日章」の基礎が作られ、ここから我が国の栄典制度が発展していきます。しかし、この時代の栄典の授与は軍人や役人を中心に行われていたため、太平洋戦争敗戦後は日本の古い制度のうちの一つとみなされ、生存者に対する勲章は昭和21(1946)年に一時停止されます。

しかし、昭和39(1964、東京五輪開催)年に復活し、同時に、それまでの軍人や官吏など限られた人ではなく一般人を含めた生存者を広く対象とするような制度に改革が行われました。また死亡した者にあとから授与される章もあります。

1年で春と秋にそれぞれ受章者が発表され、年間で約9000人が受章します。

現在の栄典の種類

栄典の種類は大きく分けて「勲章(くんしょう)」と「褒章(ほうしょう)」の2つがあります。以下、勲章を管轄する内閣府の説明に文言を極力合わせた形で解説していきます。

勲章をさらに分けると、

 ・春秋叙勲(書き洩らしていたため追加しました)
 ・危険業務従事者叙勲(自衛隊員、警察官)
 ・高齢者叙勲(88歳以上の高齢者)
 ・死亡勲章(受章すべき者が死亡してしまった場合に授与される勲章)
 ・外国人叙勲(国賓、駐日外交官)

 ・文化勲章(文化・スポーツの発達に関して顕著な功績があった者)


 

そして、各勲章には「等級」があります。ただし、文化勲章には等級はありません

一応その等級についてもまとめておくと、

 ・大勲位菊花章(だいくんいきっかしょう、と読みます)、大勲位菊花章頸飾、大勲位菊花大綬章(最高位)
 ・桐花大綬章
 ・旭日章 (功績の内容の大きさに着目)
 ・瑞宝章(功績が長年行われたことに着目)

 ・宝冠章(女性のみに与えられる)

旭日章と瑞宝章にはそれぞれ、大綬章・重光章・中綬章・小綬章・双光章・単光章があり、功績の程度に応じてふさわしいとみなされた章が贈られます。また、宝冠章は女性のみに与えられる章で、他の章とは別枠として捉えられているようです。

※平成14年の改革以前は、旭日章が男性に宝冠章が女性に与えられ、瑞宝章が男女兼用の章として使われていましたが、このときの改革により旭日章と瑞宝章はともに男女両方に与えられる賞となり、宝冠章は例外的な扱いになりました。

とても複雑ですね。とりあえず、最初に挙げた危険業務従事者叙勲や文化勲章などをカテゴリーとして横軸として捉え、旭日章などをレベルとして縦軸と捉えると分かりやすいかと思います。

つぎに、「褒章」は以下の通りに分けられます。

 ・春秋褒章
 ・紺綬褒章(公益のために私財500面円以上を寄付した者)
 ・遺族追賞(受賞するべき者が死亡している場合に遺族に与えられる賞)

「春秋褒章」はさらに分けることができます。

 ・紅綬褒章
  (自己の危難を顧みず人名の救助に尽力した方)
 ・緑綬褒章
  (長年にわたり社会に奉仕する活動(ボランティア活動)に従事し顕著な実績を挙げた方)
 ・黄綬褒章
  (農業、商業、工業等の業務で他の模範となるような技術や業績を挙げた方)
 ・紫綬褒章
  (科学技術分野における発明・発見や学術及びスポーツ・芸術文化分野で優れた業績を挙げた方)
 ・藍綬褒章
  (会社経営や団体活動で社会への優れた貢献、民生委員や保護司など公共の事務に従事した方)
 ・紺綬褒章
  (公益のために私財を寄付した方)
 ・褒状
  (受章される方が団体である場合)
 ・飾版
  (すでに褒章を受章された方に同じ褒章を授与する場合)

かなりの種類が褒章にもあります。そして、大事なことは勲章では与えられる対象者が「者」になっていますが、褒章では「方」になっているということです。これには大きな違いがあります。「者」には私たち一人ひとり(自然人)と法人(会社、NPO法人)が含まれます。一方でただの人の集まりや団体は含まれません。そのため、法人でない団体には勲章は授与されません

他方、「方」というのは私たち一人ひとりのことだけを指します。こう書くと法人や団体が「褒章」を受け取れないようですが、「褒状」のところで受章者が団体である場合も含まれていますから、法人も団体も受章でき、勲章よりも広い範囲をカバーしている制度だと言えます。

・イチローは「勲章」や「褒章」を受賞できるのか?―この制度の問題点

この制度には、実は数々の問題があります。

制度が複雑怪奇

まずは制度が複雑であることです。今まで栄典制度の説明を書いてきましたが、お読みになった方の中にも「複雑すぎてわかりにくい」と思った方が多いと思います。まず、章の数がとにかく多いことです。正直、ここまで細かく分ける必要があるのかどうかは疑問です。

また、「勲章」と「褒章」が重なり合っている部分が多いことも分かりづらさの要因です。例えば、文化・スポーツ部門だと、「文化勲章」も受章できますし「紫綬褒章」も受章できます。一本化した方がスッキリして多くの人にわかりやすい制度になると思います。

最大の問題は年齢制限

そして、この栄典制度の最大の問題が年齢による制限です。

「勲章」は70歳以上、「褒章」は55歳以上でないと受章できません。話をイチロー選手に戻すと、イチロー選手は現在45歳なので、文化勲章も紫綬褒章も受章することはできません

(※現時点ではイチロー選手は受章できませんが、年齢が55歳、70歳に達すれば受章が可能です。あくまでも、現時点で受章できないという意味であることをご理解ください)

この「年齢制限」の問題は、実は栄典制度を管轄する内閣府でも「年齢制限があることで若い人に章を与えられず、若年層の栄典制度への関心が薄い原因である」ということがすでに指摘されているのですが、年齢の引き下げあるいは廃止といったことはいままで行われていません。

本当は、ここでこの栄典制度を改革すべきだったのですが、章を授与されるに値する若年の人に向けた表彰の制度を、政府は栄典制度とは別に作ってしまいました。

この部分の記述に誤りがありましたので、訂正します。

勲章については、現在も年齢制限が存在します。これは、内閣府が出している「栄典制度の概要について」という書類を見ると分かります。ただし、年齢制限が存在するのは以下にあげた勲章のうち、春秋叙勲が70歳以上、危険業務従事者叙勲が55歳以上、高齢者叙勲が88歳以上です。

文化勲章については、これらの勲章とはそもそも別に設定されている勲章であり、年齢制限は存在しません(この点に重大な誤りがありました。訂正してお詫びします)。栄典制度が明治時代に端を発しているのに対し、「文化勲章」は昭和になってから新たに作られた章だからです。他の勲章が「叙勲」という呼び名であるのに対し、文化勲章は「勲章」という呼び名になっています。ただ、年齢制限はなかったものの、近年までは80歳以上の受賞者が多かったということはあるようです。

 ・春秋叙勲
 ・危険業務従事者叙勲(自衛隊員、警察官)
 ・高齢者叙勲(88歳以上の高齢者)
 ・死亡勲章(受章すべき者が死亡してしまった場合に授与される勲章)
 ・外国人叙勲(国賓、駐日外交官)

 ・文化勲章(文化・スポーツの発達に関して顕著な功績があった者)

そのため、イチロー選手は文化勲章を受章することが可能です。平成14年に閣議決定された制度改革で「褒章」に関する年齢制限は撤廃されました。そのためイチロー選手には「紫綬褒章」を受章する可能性もあります

王貞治氏の時代は改革道半ばだった

こうした改革が進んだのは時代が21世紀に入ってからで、昭和の時代には「勲章」は70歳以上、「褒章」は55歳以上という制限がまだ残っていました。

そこに現れたのが、世界のプロ野球の通算ホームラン記録を塗り替えた王貞治氏の登場です。王氏は勲章や褒章を授与されるには当時は若すぎました。

そのために作られたが、「国民栄誉賞」です。

記事が長くなってしまうので、国民栄誉賞については、この記事とは別の記事で解説していきます。こちらからどうぞ。
「『国民栄誉賞』について考えよう。」

お読みいただきありがとうございました。

<参考文献>

「栄典制度の在り方に関わる論点の整理」、内閣府HP、2019年3月23日閲覧
https://www8.cao.go.jp/shokun/seidokaikaku/kondankai/ronten-seiri/index.html

「世界勲章物語―21世紀の勲章 年齢制限を廃止など改革の余地大きい日本の叙勲 関東学院大教授・君塚直隆」、産経ニュース、2019年3月23日閲覧
https://www.sankei.com/life/news/170316/lif1703160023-n2.html

「勲章制度の概要」、内閣府HP、2019年3月23日閲覧
https://www8.cao.go.jp/shokun/seidogaiyo.html

「栄典制度の在り方に関わる論点の整理 III叙勲制度の運用」、内閣府HP、2019年3月29日閲覧https://www8.cao.go.jp/shokun/seidokaikaku/kondankai/ronten-seiri/3.html

「栄典制度の在り方に関わる論点の整理 IV褒章」、内閣府HP、2019年3月29日閲覧
https://www8.cao.go.jp/shokun/seidokaikaku/kondankai/ronten-seiri/4.html

「栄典制度の在り方に関わる論点の整理 V文化勲章」、内閣府HP、2019年3月29日閲覧
https://www8.cao.go.jp/shokun/seidokaikaku/kondankai/ronten-seiri/5.html

「日本の「勲章」制度について考えよう。」への6件のフィードバック

  1. 褒賞は50歳以上でないと授与できないと書いてありますが例としてレスリングの吉田沙保里選手は30歳の時に国民栄誉賞と同時に紫綬褒賞を受賞してます
    また1962年生まれの山中伸弥教授は2012年に文化勲章を叙勲されてるのですが勲章は70歳以上
    褒賞は55歳以上からとの根拠はどこにあるのでしょうか?

    1. コメント、ご指摘ありがとうございます。
      年齢制限について誤りがありましたので、説明いたします。平成14年の栄典制度の改革で「褒章」に関しては年齢制限が撤廃されました。そのために吉田沙保里氏が受賞できました。この点について誤りがありあましたのでお詫びします。
      また、「文化勲章」についてですが、こちらは制定当初より年齢制限は存在していませんでしたが、こちらをご覧いただくと、80歳以上の受賞者が多く慣例化した部分もあったことが伺えます。しかし、これも平成14年の改革以降この制度を持って身近にしたいという意向から、暗黙の中であった年齢制限は打ち破られているものと考えます。そのため山中教授も受賞しているものと思います。この点についても事実誤認がありましたので記事を訂正しました。また誤った情報を掲載してしまったことをお詫びします。

      「勲章は70歳、褒章は55歳」と申し上げていたのはこれらの改革が行われる以前のものです。改革の中で内閣府で行われた論点整理を見るとそのことが記載されています。記事の末尾に新たに追加したリンクからご覧ください。改革以前の事実をもとに書いてしまったため、現行の制度とは異なる記事となってしまいました。

      一方で、「勲章」については年齢制限が未だに存在します。春秋叙勲については70歳から、危険業務従事者叙勲については55歳、高齢者叙勲については88歳以上です(調べた結果外国人叙勲にはないようです)。このことは内閣府が出している「栄典制度の概要」をみるとお分かりいただけるかと思います。訂正した記事をお読みいただき、それでもまだ不備をお感じになるようでしたら教えていただければと思います。
      この度はご指摘ありがとうございました。また、種々の誤りについては申し訳ありませんでした。

      1. ご返答ありがとうございます
        文化勲章を除く勲章は一部を除いてまだ年齢制限があるのは存じ上げませんでした
        最近スポーツ選手などが国民栄誉賞を受賞すると同時に紫綬褒章も同時に受賞するのが慣例となっているので恐らくイチロー 選手が国民栄誉賞を受賞した際は紫綬褒章も同時に受賞する可能性が高いですね
        ただイチロー 選手なら文化勲章や旭日大綬章を叙勲されてほしいと思います
        旭日章の叙勲基準の一つである文化又はスポーツの振興に寄与した者にイチローが該当しないはずありませんし
        ただ早くても25年後なんですね
        個人的には国民栄誉賞と同時に叙勲が良いのではと思ってしまうところはありますね

        1. ご返信ありがとうございます。ご納得いただけたようで良かったです。
          最近は国民栄誉賞と紫綬褒章が同時に与えられるのも、この年齢制限がないためだと思いますので、おそらくイチロー選手の場合も国民栄誉賞と紫綬褒章が同時に打診されるのだと思います。一方で、仰る通り「同時に叙勲」する必要なはないのかという議論をする余地はあると思います。この記事も「国民栄誉賞」をあげて盛り上がっているだけでよいのか、という問題意識を持って書いています。

          また、昨年旭日章を受章した方の一覧を見てみると中綬章以上はほとんど元政治家、元会社社長で、文化面で貢献した方は小綬章以下にとどまっているという事実もあります。実際、去年受章した北野武氏、西田敏行氏などは小綬章にとどまっています(こちらから一覧をご覧になれます。北野氏と西田氏は「小綬章以下」の「東京都」のところに名前が挙がっています)。特に海外の映画祭で高く評価された映画もある北野氏が小綬章にとどまっているのは疑問です。

          イチロー選手は年齢制限をクリアできていないため現時点で叙勲の可能性はありませんが、将来的に叙勲されたとしても旭日小綬章にとどまる可能性が高いと思います。

          1. ご返答ありがとうございます
            スポーツ選手や文化人の人で旭日中綬章以上の勲章を叙勲された人は調べてみると市川團十郎氏や画家の塗師祥一郎氏などが叙勲されていました
            スポーツ選手の叙勲は江本孟紀氏が旭日中綬章を殊勲していますがこれは参議院議員を経験した事に対するものでしょう
            ただイチロー氏の功績は北野武氏や西田敏行氏を上回るものではないかと思ってしまうところは多少あります
            授与基準に文化又はスポーツの振興に寄与した者という項目があるのだからもう少し叙勲の幅を広げてほしいというのが1つの願いですね
            やはりイチロー選手が叙勲されるのであればその中で最高位の旭日大綬章を叙勲されてほしいと思いますね

          2. 返信にかなり時間がかかってしまい大変申し訳ありません。
            ご自身でお調べいただいたようで、大変貴重な情報をありがとうございます。イチロー選手の件を通じて、「勲章」というものの価値が見直されると良いなと思います。そのためにはまず、どの章を授与するかの前に年齢制限の撤廃をしないといけませんから、なかなか道は厳しいと思います。称賛されるべき人がしっかり称賛される世の中であってほしいと思っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA