SNS時代の選挙の勝ち方―オーストラリア総選挙の「驚きの勝利」から読み解く

こんにちは、akiです。

いま日本では通常国会が終了し、まもなく参議院選挙を迎えます。衆議院選挙との同日選挙の可能性も上がっていますが、この選挙に合わせてSNSを使った各党の動きが活発化しています。中には政治家の恣意的な民間企業の利用が疑われるような事例もあり、SNS上で大きな反論を呼んでいます。

今回は選挙の公示を前に、SNS時代の「選挙の勝ち方」について考えていきたいと思います。その格好の例となったのが、先月行われたオーストラリアの総選挙です。

オーストラリアの政治概況

オーストラリアの政治体制は日本とは若干異なりますので最初に説明しておきます。先日の選挙は、スコット・モリソン首相が先頭に立つ自由党(Liberal)を中心とした連立与党(coalition)と、党首が先頭に立った野党・労働党(Labour)との対決となりました。

スコット・モリソン首相の内向きな政治体制には在任中から批判が相次いでいたこともあり、世論調査では選挙期間中常に野党の労働党がリード、自由党は敗色濃厚と伝えられていました。しかし、いざ蓋を開けてみると僅差で自由党が勝利し、モリソン首相はその座を守り切りました。

オーストラリアでは、「Surprising Win」としてどのメディアも大々的に報じました。そしてもう一つ話題になったことが、「なぜ世論調査と逆の結果が起こったのか」ということです。

SNS時代の勝ち方:「抽象的なことを何度も言う」

モリソン首相が勝つことができたのは、彼らの政策が良かったからではありません(ここはのちに深入りします)。なぜなら、彼らは気候変動・男女平等といった世界的に取り組むべき課題について全く具体的な施策を示していませんでした。むしろそういったことについて政策を示していたのは敗れた労働党の方でした。

そう考えると、選挙前に「労働党が勝つ」という予想が大半を占めたのは至極当然のことだと思います。なぜなら、今の世界の状況を見れば明らかに労働党の主張の方が合理的だからです。

しかし、結果はそうではなかったのです。どうしてなのでしょうか。そこで考えるべきは、SNSをはじめとするインターネットの力です。

オーストラリアで2016年に行われた調査では14歳以上の52.2%が「1週間以内にSNS上でニュースを見た」と回答しており、これは53.9%だったテレビに次いで多く、他のメディアを大きく引き離しています。

また、世代別に見ると、35-44歳の半数、そしてそれ以下の世代では実に6割以上が紙媒体ではなくオンラインでニュースを見ていることが明らかになっています。

1.すべての情報が「要約」される

最大のポイントは、すべての情報が「要約」されることです。Twitterであれば、どんな複雑なことも140字以内で表さなければなりません。もちろん、一つのツイートに何個もリプライを自分でつけるという手もありますが、それでは複雑な政治、行政の仕組みについての話は誰も読みません。SNSにおいてはいかに「簡潔に」伝えるかということが大事になります。

しかし、これがあまり政策を語る際にふさわしくありません。選挙で話題になるような問題(人口、ジェンダー、労働力不足、気候変動など)はすべて相互に関連しているので、要約のしようがないのです

人口減少は出生率の低下と強く関係がありますが、出生率の低下には未婚率の上昇と深い関係があり(フランスなどと違って日本は結婚せずに子ども持つカップルはとても少ないため)、それは社会の中のジェンダーロールなどともかかわります。人口が減少すれば、労働力が不足し経済の足かせとなるだけでなく、社会保障の担い手(税金を払ってくれる人)が少なくなり、社会不安が増大します。

さらに、そうなれば今度は海外から移民の受け入れという話になりますが、その際に差別をせずどうやって日本社会に外国人と生きていくのかという話もしなければなりません。

ということで、すでにこの時点で140字を大きく超えていることからも分かる通り、残念ながら政策をSNSに合わせて「要約」することは不可能です。しかもこれはすべての政策の概観に過ぎず、ここからさらに個々の政策について議論するとなれば、文字数はもっと増えます。

そして、これは文字だけでなく動画でも起こりえます。SNSで効果的にシェアされる動画は長くても1分程度で、ほとんどでは数十秒です。つまり、政治家が10分かけて素晴らしい街頭演説を行ったとしても、有権者に伝わるのはほんの数十秒なのです。このことはテレビ番組で演説の一部のみが流れることにも当てはまります。

では、代わりに政治家は何を訴えるのでしょうか。

そうです。

「Make America Great Again」

です。

これなら、140字の制限の中で伝えることができます。演説を聴くと分かりますが、トランプ大統領は本当にシンプルな英語で話します。何かを評価をするときに使う語彙も「good」「bad」といったとても一般的な言葉です。オバマ前大統領ならもっと大学の論文で使うような語彙を使うでしょう。

つまり、トランプ氏は初めから「要約されること」を狙って言葉を選んでいるのです。そして、これと同じことがオーストラリアの総選挙で起きたのです。

2.大量に同じ情報を出す

もう一つは「サイバーカスケード」と呼ばれる現象を利用するものです。「フィルター・バブル」とも言われる現象です。インターネット上のプラットフォーマーはユーザーが触れた情報を基に似たような情報をユーザーに「おすすめ」として提案します。この機能が、ユーザーを異なる意見を含む情報に触れさせる機会を奪う危険性についてはすでに様々ところで指摘されています。

これを政治的に利用するとすれば、同じような情報がいくつもインターネット上にあれば、ユーザーをその「フィルター」の中に引き入れてある意味「洗脳」できてしまう可能性が高まります。また、最初は懐疑的な意見を持っている人に対しても何かのきっかけで「フィルター」の中に引き込めば支持層の中に取り込むことができます。

また、どんどん同じような情報を作り出していくことで、すでに「フィルター」の中に入った人をより高い確率でその中にとどまらせることができます。

理論的な方が有権者を混乱させる?

これらを組み合わせた戦略が、「抽象的で心に響く主張」を「何度も繰り返す」ということです。非常に単純ですが、有効なプロパガンダの方法です。この方法がトランプ対クリントンの大統領選挙でも用いられたほか、先だってのオーストラリアの総選挙でも使われました。そして日本の選挙でもこれからさらに積極的に利用されることになるはずです。

オーストラリアの総選挙でモリソン首相が率いる連立政権が何を言っていたのかというと、「オーストラリアで素晴らしい生活が送れる国にする」ということです。基本的にこれ以上のことは言っていませんでした。反対に、労働党はモリソン首相は具体的な政策を出していないということを批判するキャンペーンを展開しました。

オーストラリアではYouTube上に政党の広告を出すのが合法なので、投票一週間前は動画を見る度に政党の広告が流れるのですが、連立政権のものはモリソン首相が学校を訪問する様子などを流して「オーストラリアで素晴らしい生活を」という終始和やかな雰囲気の広告だったのに対して、野党の広告は「モリソン首相に政権を渡すべきでない理由」を箇条書きで述べるような広告でした。たしかに、雰囲気としては連立政権のものの方が良かったです(ただし何も語っていないのと同然ですが)。

再びトランプ大統領に戻りますが、大統領の演説で使われている英語レベルはネイティブの8歳児と同じくらいであると言われています。また「驚くほどシンプルで、同じ構文の繰り返し」であるとも言われています。これこそまさに、SNS時代の支持集めに最もふさわしい(もちろん良い意味ではありませんが)方法です。

これを日本に置き換えてみましょう。例えば、ある党(A党とします)が「美しい国をつくる」と何回も主張し、またそれを「無策だと」批判する別の党(B党とします)が具体的な政策を何回かに分けて訴えたとします。

さて、どちらが勝つでしょうか。最初は「B党の方が合理的だ」という印象を多くの有権者は持つでしょう。しかし、選挙期間がすすむにしたがってB党の主張は複雑なものに思えてくるのではないでしょうか。有権者は「何だか複雑でわかりにくいな」という印象も持ち出す可能性があります。

そこで魅力的に見え始めるのがA党の「美しい国をつくる」という主張です。かなり抽象的で具体的には何も言っていないに等しいこの主張ですが、一方で単純明快です。そして、誰もがなんとなく思う「幸せな生活を送りたい」という願望、そして「自分は幸せに暮らせるのだろうか」という漠たる不安に旨く働きかけます。そうなればA党の勝利です。

幸せに暮らすためには複雑な問題を少しずつでも解決していくことが必要ですが、それを訴えない方が「幸せに暮らしたい」という人の支持を集められるという、何とも皮肉なことです。

これが、冒頭で言及した「世論調査の失敗」の原因だったのではないかと思います。最後の最後で意見が変わってしまったという人が多くいるのではないでしょうか。

最後にもう一度:政治は140字に要約不可能!!!

ここまで、SNS時代において選挙において勝利を収める方法を考察しました。最後にもう一度強調しておきたいことは、「SNSで政治は語れない」ということです。

複雑な要素が絡み合う政治問題は、インフルエンサーが何かをプロモーションするのとは全く次元が異なります(インフルエンサーを批判する意図はありません)。政治問題は140字や30秒の動画では到底説明できない複雑な要素の絡み合いです。SNSで政治問題のプロモーションが行われるとき、それは非常に単純化され様々な他の要素が排除されたものになることに注意すべきです。

SNS時代においてこういった複雑な問題をそのまま語ることが敬遠されることはもはや仕方がないことなのかもしれませんが、こういった問題こそ私たちの生活に重大に関わるものが多いのもまた事実です。

しかし、無意識に単純化された情報ばかりを取っていると、そういったものを利用してのし上がる人がいるかもしれないということには注意する必要があるのではないでしょうか。

お読みいただきありがとうございました。

この記事を書くにあたり参照したサイト

Ruedlinger, B, 2012, ‘Does Video Length Matter?’, wistia, Accessed 30 June 2019, https://wistia.com/learn/marketing/does-length-matter-it-does-for-video-2k12-edition

Shugerman, E, 2018, ‘Trump speaks at level of 8-year-old, new analysis finds’, The Independent, Accessed 30 June 2019, https://www.independent.co.uk/news/world/americas/us-politics/trump-language-level-speaking-skills-age-eight-year-old-vocabulary-analysis-a8149926.html

Pariser, E, 2011, ‘Beware online “filter bubbles”‘, TED Talk, Accessed 30 June 2019, https://www.ted.com/talks/eli_pariser_beware_online_filter_bubbles#t-525204

Watkins, J, 2016 ‘Digital News Report: Australia 2016’, University of Canberra, p.7, Accessed 30 July 2019, https://www.presscouncil.org.au/uploads/52321/ufiles/Fact_Sheets/digital-news-report-australia-2016.pdf

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