香港「残りの550万人」はどこ?【前編】

200万人の反対運動に隠された多数の不参加者

こんにちは、akiです。

この記事から2つの記事に渡って、現在13週目に突入している香港の市民による香港政府、そして中華人民共和国・北京政府への反対運動について考察したいと思います。

この記事では、ことの発端となった「逃亡犯条例」についてではなく、反対運動の主催者が発表した参加者数「200万人」という数字から見えてくる香港の現状について考えたいと思います。

また、この記事は現在の反対運動に対する批判ともとれる文言を含みます。ですので最初に筆者の立場を明確にしておきますが、あくまで私は民主主義を信条としています。また、香港警察が負傷した市民の治療を妨害するなどの国際法違反を行っているという報道に触れて強い憤りを感じています。

また、実際の香港に住む当事者ではないことから、いま反対運動を行っている当事者たちが感じていることと私が考えていることに相違がある可能性も十分にあります。その点については誤解のないように、この先の文章をお読みいただけますと幸いです。

さらに、この記事で引用元として使用するサイトは、中国の影響力があると思われるものを極力排しました。アメリカ、イギリス、オーストラリアのメディアに加え、香港に拠点を置く英字新聞社「South China Morning Post」そして香港政府の統計局(Census and Statistics Department)が出す情報を参考にしています。

主催者が発表した「200万」という参加者数

さて、本題に入ります。この記事をお読みになっている皆さんは、現在のデモ活動そして反対運動にどれくらいの数の人が参加しているかご存知でしょうか?

この数は運動の主催者側と香港警察側で大きく食い違っています。

アメリカCNNが伝えたところによれば、8月18日の反対運動には主催者発表で170万人の人が参加しました。一方で警察は12万8千人だとしています。また、Newsweek日本版によれば穏健なデモ活動の段階だった6月16日の運動は200万人が参加したと主催者は発表していますが、警察は33万8千人だとしています。

こういった運動の際に、主催者と警察側で参加者の人数に差が出ることは日本のデモにおいてもあることです。ただ今回は差がとても大きくなっています。メディア等で報じられる香港の様子を見ると、若干の誇張はあるのではないかとは思いつつも実際の参加者は主催者側の言う「200万人」の方により近いと感じます。ということで、今回の記事では反対運動の参加者は「200万人」最近の数としては「170万人」として話を進めます。

話を変えます

「参加者」が何人かというのはこの記事の本題ではありません。

それでは、この記事をお読みになっている皆さんに再び質問をします。

香港の全人口の「何%」がこの運動に参加しているか知っていますか?

テレビでもSNSでも毎日流れてくる香港の反対運動の様子。全員とまではいかなくても、人口の7、8割は参加しているのではないかと思ったあなた、それは大きな間違いです

香港の人口統計を見てみる

香港の統計局が速報したところによると、2019年の香港の推定人口は752万4100人です。もう一度言います。香港の人口は約750万人です。

単純にこの数で200万を割ると、6月19日のデモに参加したのは香港の総人口の約26.6%ということになります。つまり4分の1ということです。

ただし、総人口の中には乳幼児やお年寄りといった反対運動に参加できない人の数も含まれます。この人たちを除外してより正確な数値を求めてみます。

どこで切るかによってだいぶ変わってくる

香港の統計局が出している年齢別の人口は0-4歳、5-9歳、10-14歳…というように5歳おきに人口が算出されています。今回の反対運動は大学生が大きな原動力となっていることから、最年少の世代を10代後半(15-19)の世代としました (9月2日現在で、中高生が抗議授業をボイコットし始めているという報道もあります。その意味では10代前半も入れるべきだったかもしれません)。

この最年少世代のラインを変えずに、どこまで高齢の世代を計算の対象とするかでデータの見え方が大きく変わってくることがわかりました。

デモというのは、何となく若者がするものというイメージが付きがちですが、今回の香港の反対運動には、映像で見る限り幅広い年齢層の方が参加しているように見えます。映像では明らかにお年寄りだと思われる人や、赤ちゃんを抱いた親の姿もありました。そのため、10代後半~30代だけで見るのは現実を反映していないだろうと私は考えます。

そのため、今回は15歳~40代、~50代前半、~50代後半、~60代前半の4つのカテゴリーに分けて総人口を計算し、6月19日の参加者数「200万人」と8月18日の参加者数「170万人」がどれだけの割合を占めるのか計算しました。

以下に計算結果の表を添付します。

15-49歳の総人口で200万人(6月19日、主催者発表の参加者数)で割ったときは、デモ参加者の割合が人口の半分以上になっています。一方で、その他すべてでデモの参加者数が世代別人口の半数を割り込んでいることは驚きです。60代まで含めると30%台にまで落ち込みます。

もちろん、「それでも半分の人が外に出て抗議しているんだからこれは重大な反対運動だ」ということはできます。しかし「半分の人は参加していない」ということもそれと同じくらい重大な事実であると思います。

「同じ意見の人全員が外に出てくるわけではない」のだから、「実際にはもっと多く(つまり半数以上)の人が支持している」のではないかという反論ももちろん有効です。しかし、少なくとも「デモ、反対運動」=「香港全体の意思」のように単純化することは不可能であるということは言えるのではないでしょうか。

他方、現在の各国メディアの報道は、デモと反対運動が香港のすべてであるかのような印象を私たちに与えます。しかし、それらの運動と関わることなく(正確には関わることが「できない」というべきことが次の記事を読むとお分かりいただけるはずです)生活している人が多くいるということも私たちは念頭に置くべきだと考えます。

ではなぜ、皆が香港・北京の両政府に反対しているように見える中で、半々に意見が分かれるような状況が起きているのか。その主な要因は世界でも最悪レベルの「住宅問題」と「格差の拡大」だと私は考えます。

次の記事で、「住宅問題」と「貧富の拡大」について詳しく考えていきたいと思います。

次の記事→「『世界一高い家賃』と『世界で2番目に不平等』な格差に苦しむ香港の貧困層

お読みいただきありがとうございました。

<参考文献>

下部美紀、「主催者200万人・警察33万8千人と食い違う香港デモ参加者数 正しいのはどちら?」(東京:Newsweek日本版、2019年)、2019年9月2日閲覧
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/06/200338_1.php

Census an Statistics Department, ‘Population Estimates Table 002 population by Age Group and Sex’, The Government of the Hong Kong Special Administrative Region, 2019年9月2日閲覧
https://www.censtatd.gov.hk/hkstat/sub/sp150.jsp?tableID=002&ID=0&productType=8

Helen Regan, Joshua Berlinger, Steve George & Jessie Yeung, ‘Hong Kong protests enter 11th consecutive weekend’, CNN, 18 Aug 2018, 2019年9月2日閲覧
https://edition.cnn.com/asia/live-news/hong-kong-protest-aug-18-intl-hnk/index.html

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